『イン・ザ・メガチャーチ』が怖い理由

戦争、SNS、推し活、新興宗教——2026年本屋大賞『イン・ザ・メガチャーチ』を読むと、一見別の話に見えるものが不気味につながっている。今の時代の「語り」の構造をのぞき込むと、私たちが何に心を動かされ、何を信じ、どこで視野を奪われるのかが見えてくる。
五百旗頭幸男 2026.04.13
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戦争の時代に、情報とどう暮らすか

4月に入り新学期や新生活が始まったというのに気が重いという人が多いのではないか。ただでさえ環境が変わることは大きなストレスなのに、物価高や原油不足、医薬品・医療資材不足などもあいまって不安がどっと押し寄せている。原因ははっきりしている。アメリカとイスラエルがイランを攻撃したからだ。4年前に始まったロシアとウクライナによる戦争も終わりが見えない。大国が仕掛けた戦争が続くなかで、また別の大国が戦争を始めてしまった。子を持つ親としては、その「戦争」をわが子にどこまで見せるべきなのか、どう説明すべきなのかと日々悩んでしまう。

戦争を子どもにどう教えるかは「情報とどう暮らすか」につながる話だと思う。嘘か本当かを見抜く力を養うのは不可欠だが、そのためにも「“ナラティブ(物語)に乗せられやすい自分”に気づく力」や「“アルゴリズムに乗せられて偏った世界にいる自分”に気づく力」が重要になるのではないだろうか。でも、そうした力は、子どもに教える以前に大人ですら体得するのが難しい。事実、新興宗教はなくならないし、「推し活」は活況を呈しているし、SNSでは意見や立場の違う人への誹謗中傷合戦が繰り広げられている。戦争による深刻な影響が身近に迫り、玉石混交の情報が飛び交い、社会が大混乱に陥ることも想像できてしまう今だから、情報との向き合い方を自分なりに整理しておこうと思う。

小説『イン・ザ・メガチャーチ』が照らす“人を動かす物語”

今月9日発表の「2026年本屋大賞」に選ばれた朝井リョウさんの小説『イン・ザ・メガチャーチ』を読んだ。帯文には、衝撃的だが、今の時代を解像度高く捉えた言葉が並ぶ。

「神がいないこの国で人を操るには、“物語”を使うのが一番いいんですよ」
——ファンダム経済を築く者、のめりこむ者、かつてのめりこんでいた者。世代や立場の異なる3つの視点が炙り出すのは、虚実入り混じった情報あふれる時代に人々を行動へと突き動かす“物語”の功罪。事実と解釈、連帯と暴走、成長と信仰、幸福と中毒、人生と孤独‥‥‥沈みゆく列島で、“界隈”は沸騰する。

朝井リョウ『イン・ザ・メガチャーチ』帯文

翌日の共同通信配信記事には「今の時代に人を動かすものとは何かを書きたかった」という朝井さんのコメントが載っていた。実際、この小説を読むと、ここ数年に国内外で起きた出来事の数々がクリアに頭に浮かんでくる。

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