メディアスクラムが通り過ぎたあとで

報じられない悲哀と過熱報道の無慈悲。事件や災害の現場で、記者たちはなぜ同じ場所へ殺到し、同じ声を求めてしまうのでしょうか。能登半島地震、富山で起きた事件の記憶、数字に追われる報道現場から見えてきたのは、「寄り添う」というきれいな言葉では捉えることができない現実でした。
五百旗頭幸男 2026.05.23
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その事件は、本当に「大ニュース」だったのか

京都府南丹市で小学5年の男児が行方不明となり遺体で発見された事件は、テレビと新聞を中心に多くのメディアが連日大きく報道し、メディアスクラム(集団的過熱取材)が問題となった。これまでも大きな事件や事故、災害が起きるたびにメディアスクラムは繰り返されてきた。「ああ、またか・・・」というのが正直な感想だが、一方で何かひっかかる。違和感の正体は、これが果たして「大きな事件」にあたるのかという疑問にあった。当然、尊い命が奪われた残虐な事件であり、普段通り登校したはずの男児が行方不明になっていた経緯はショッキングかつ不可解で、ニュース性は高い。でも、同盟国アメリカがイランとの泥沼の戦争に突入し、日本国内にも様々な影響が及んでいる最中に、戦争関連のニュースを隅に追いやってまで大々的に報じるべき事件だったとは思えない。SNSやYouTubeでバズる話題だったから、テレビや新聞はこぞって事件を追いかけたふしがある。結果、SNSに流れる真偽不明情報までをも後追いする始末だった。

 取材を加熱させる“数字”の魔力 

報道各社が競って「目に見えてわかりやすい成果」を短期間に追い求めるとき、得てしてメディアスクラムが起きる。「目に見えてわかりやすい成果」とは、南丹市の事件ならば、ニュース番組の“視聴率”やYouTubeにアップしたニュース動画の“再生回数”、ネット配信したニューステキストの“ページビュー”のこと。つまり、数字だ。

私見を述べると、数字がいいから司令塔であるデスクはニュースとしての扱いを大きくするし、現場に多くの記者を投入して「新しい情報を取ってこい!」と発破をかける。記者たちは手分けして現場を隈なく動き回り、取れる情報と撮れる映像を片っ端から拾い集め、次々とデスクに上げていく。記者にとっては肉体的に疲れるが、「情報を上げる」という単純明快な目標を頼りに他社と同様の取材をすればよい状況というのは、実は精神的には楽だ。あまり複雑な思考を働かさずとも、デスクの指示通りに動いていればいいからだ。それでいて他社と競い合う状況にはなっている。重大な事件であればあるほどアドレナリンの分泌が増え、高揚感が高まり、他社との競争に一心不乱に身を投じていく。個々の記者と会社が意図せずとも「気づけばメディアスクラムになっていた」状況が生まれる要因は、こうしたところにあるのではないか。

鬱積する不満と苛立ち 

地方でも、全国ニュースになるような大きな出来事があると頻繁にメディアスクラムになる。殺人事件が起きれば、各社が容疑者と被害者の顔写真を手に入れたり、人となりや交友関係を探ったりするために、親戚や同級生、恩師などを探してまわり、家が見つかれば呼び鈴を押して取材を頼み込む。その地域に拠点を置くテレビ局と新聞社、通信社が13社ある場合、少なくとも13人の記者がそうした関係者宅を入れ代わり立ち代わり訪ねることになる。加えて、東京、大阪、名古屋のテレビ局が報道・情報系の番組ごとに取材クルーを送り込むため、事件の関係者は1人で20~40人ほどの記者から立て続けに取材を受けることになる。しかも、毎回ほぼ同じ質問をされるのだ。こうして、良かれと思って受け始めた取材はだんだん億劫になり、とめどなく押し寄せてくるメディアに苛立ちを募らせることになる。記者たちは関係者を見つけ出すために住宅地図を片手にローラー作戦で家を順々に調べていくので、その地域には記者対応に振り回された人たちによる不満が鬱積していく。こうした前提を頭に入れたうえで、ここからの話を読み進めてもらいたい。

踏み荒らされた現場、残された地元記者 

地方に根を張る記者ならば、丁寧に時間をかけて耕してきた取材現場を、東京などから一時的にやってきた記者たちが荒らすだけ荒らして去って行くさまを苦虫を嚙みつぶしながら見届けた経験があると思う。私にも脳裏にこびりついた記憶がある。今から10年以上前、富山県内で複数人が死亡する事件があり、発生直後から遺族を取材していた。

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