「議会のドン」に惑わされてはいけない

「議会のドン」という言葉は便利だ。誰が権力を握り、誰が混乱の中心なのかを一瞬で分かった気にさせてくれる。福岡県議会をめぐる一連の疑惑でも、世間の視線は当然のように“ドン”へ集まった。だが、地方政治の病巣は、いつも分かりやすい悪役の姿をしているとは限らない。むしろ厄介なのは、県民目線の正論を語りながら、肝心な場面では検証の範囲を狭め、責任の境界線を静かに引き直す政治ではないのか。
五百旗頭幸男 2026.07.24
読者限定

取材制限案の背後にあった「不都合なこと」 

先月、福岡県議会議会棟での取材を制限しようとする「新ルール案」について、このニュースレターで書いた。当時、議員たちによる高額で支出が不透明な海外視察が繰り返されていた問題のほか、県職員でつくる互助会「部課長会」が議長らの政治資金パーティー券を組織的に購入していた問題が発覚していた。地元の西日本新聞を中心とするメディア各社の報道が活発になっていたタイミングで、突如議会側から出てきたのが「新ルール案」だった。

政治家が報道機関に対して不可解な難癖をつけてくる時は、得てして政治家側に「不都合なこと」が起きている。厳しい報道から自分の立場を守ろうと必死になった結果、道理に合わないことを言い始めるのは世の常だ。でも、彼らが隠そうとしていた「不都合なこと」がこれほどのものだとは思わなかった。あれから1か月以上が経ち、福岡県議会はとんでもない事態となっている。

「カツアゲされたようなもの」 正副議長就任に計2750万円、県議2人が証言

テレビ西日本 2026年7月7日

“議長になるにはカネがいる”のか 4人の証言と自民幹部の否定が真っ向対立

読売新聞 2026年7月12日

福岡県議会の“ドン”にも疑惑波及 蔵内議長、500万円受領を「一切ない」と否定

西日本新聞 2026年7月17日

林総務相も「調査し、説明を」 地方議会への信頼揺るがす福岡県議会疑惑

西日本新聞 2026年7月17日

知事の「ど正論」に覚えた違和感

話を約2か月前の福岡県議会による取材制限の画策に戻そう。批判の高まりを受けてか、結局「取材制限の新ルール案」は取り下げられたが、その最中、服部誠太郎知事が発した言葉がずっとひっかかっていた。

「私はこの問題は、県民の皆様を真ん中において考えるべきであると思います。県民の皆様の知る権利を守るために報道の自由があるのであり、この県民の知る権利が阻害をされることがあってはなりません」

ど正論だし、県のトップとして県民の側に立ったもっともな発言だ。実際、この知事発言が趨勢を決する形となり、新ルール作りは白紙撤回に追い込まれたようにみえた。字面だけ読むと非の打ちどころのない素晴らしい発言なのに、評価されるべき発言なのに、なんだかモヤモヤする。石川県のテレビ局に身を置く私は、福岡県政にも福岡県議会にも詳しくない。この発言を動画で見たときに直感的に覚えた違和感だった。福岡県職員から副知事を経て成り上がった生え抜きの知事という、県庁組織と議会組織の実態を最も知りえた立場であったろうに、妙に県民に寄り添ったふりをする。三文芝居にしか見えなかった。

でも、一連の福岡県議会の問題が報じられ始めてから現在まで、このニュースの中心で圧倒的な存在感を放ってきたのは「福岡県議会のドン」と呼ばれる蔵内勇夫議長だ。地方の政界で酸いも甘いも知り尽くした大物政治家然とした佇まいと言動は、多くの視聴者の興味を引き寄せただろうし、実際にニュース映像で見た彼はすごく「画になる人」だった。

県営公園の新遊具完成を祝う式典で「蔵内県議がバッジをつけとる間は予算が続くだろう」と豪語してみたり、許可を得て撮影をしているテレビクルーに「邪魔すんなよ」とすごんでみたり。傍若無人に自らの力を誇示する蔵内氏に対し、このニュース映像の冒頭に出てくるように、小役人感丸出しで通り一遍の無難な発言に終始しているように見える服部知事は、蔵内氏の陰に隠れ、あまり注目されていない印象を受けた。

「新・三国志」よりも重要なこと 

蔵内氏とはいったい何者なのか。最大会派の自民党県議団に所属する蔵内氏は現在10期目で、去年2度目となる議長に選ばれた。福岡県議会で同じ議員が議長を2度務めるのは半世紀以上ぶりで、その後、全国都道府県議会議長会の会長にも就任した。朝日新聞は蔵内氏のことを次のように紹介している。

蔵内氏は近年、「県議会のドン」とも呼ばれ、21年の服部誠太郎知事擁立の立役者となっていた。県議でありながら、いずれも自民党衆院議員の麻生太郎元首相(福岡8区)や、二階派事務総長だった武田良太元総務相(福岡11区)と影響力を争うなどし、福岡の「新・三国志」とも言われている。

朝日新聞 2026年6月11日

麻生太郎、武田良太という大物国会議員と並び立ち「新・三国志」と形容されるとは。蔵内氏が福岡県内でいかほどの政治権力を築いてきたかは容易に想像できる。ここにきて世間をにぎわせている議長・副議長ポストをめぐる金銭授受疑惑は、要は「新・三国志」で繰り広げられてきた権力闘争の流れなのだろう。そして、ここでも見逃してしまいそうになったが、私が気になったのは「新・三国志」よりも蔵内氏が「服部知事擁立の立役者となっていた」ことだった。なるほど、議会が高額の海外視察を繰り返しても、県職員幹部が組織的に議長・副議長のパーティー券購入を続けていても、服部知事が見て見ぬふりをしてきたわけだ。にもかかわらず、議会への批判が高まると「県民の皆様を真ん中において考えるべきである」と言い始める。ならば海外視察とパーティー券購入問題について、もっと早く苦言を呈するべきである。

「ドン」だけ見ていては見誤る 

ここ最近の福岡県政と議会をめぐる報道によって、私が当初抱いた違和感はほとんど確信に変わった。

この記事は無料で続きを読めます

続きは、3648文字あります。

すでに登録された方はこちら

サポートメンバー限定
福岡県に必要な「ワンヘルス」を考える
読者限定
「毛布10枚、カップ麺4つ」から考える 日本の震災対応に決定的に欠けて...
読者限定
「それは間違いだ。つべこべ言うな」 B-29元乗組員から突きつけられた...
読者限定
若者は絶望などしていなかった
読者限定
取材制限が映し出す議会の本性
読者限定
メディアスクラムが通り過ぎたあとで
読者限定
裁判資料から解き明かされた 賛否渦巻く映画の衝撃的な”物語”
読者限定
『イン・ザ・メガチャーチ』が戦慄する理由